定期借家契約の貸主にとってのメリットと手続き上の注意点
定期借家契約とは、契約で定めた期間が満了することにより、更新されることなくその時点で賃貸関係が終了する借家契約のことを言います。
この定期借家契約の制度は、平成12年の3月に施行されましたが、一般の方にはまだあまりなじみがない制度かもしれません。
しかし、定期借家契約は、貸主の側からすれば非常にメリットのある制度です。
一番のメリットは、貸主が借主に立退料を支払わずとも、契約で決めた賃貸期間が満了すれば賃貸物件を返還してもらうか、再契約を行うかを自由に決められるという点です。
普通借家契約の場合には、法律により「正当事由」がなければ貸主が契約の更新を拒めないということになっており、その「正当事由」を満たすか否かの判断において、立退料として貸主が借主に一定の金額を支払う必要が生じる場合が多く、貸主側の意向で賃貸契約を更新しない、または途中で解約するということが制限されています。
普通借家契約の更新を貸主が拒む場合、どの程度の金額の立退料を支払えばよいかという問題が生じますが、この金額については計算方法が定まっているものではないため、個々の状況に応じて様々です。
金額算定における考慮要素として、借主が引っ越しに要する費用や、新たな賃貸物件と従前の賃貸物件の賃料の差額の一定期間分(例えば2年分など)等が考えられますが、裁判で立退き料が決定される場合であっても、必ずしもこうした要素が全て勘案されて金額が算定されるものではなく、個々の事情に応じてまちまちです。
さらに、賃借の利用用途が住居であるのか、営業用の店舗であるのか等によっても考慮要素が異なるため立退き料の算定額も変わってきます。
もっとも、敢えて実例を挙げれば賃料が15万円ほどの住居目的の賃貸物件で立退料として100万円が支払われているケースや、賃料が20万円ほどの営業用の店舗物件で500万円程度の立退料が支払われているケースもあります。
このように、場合によっては月額賃料の数倍から数十倍の立退料を支払う必要が生じるため、こうした立退料の支払いを考慮する必要のない定期借家契約は貸主にとって非常に有用な制度となります。
定期借家契約締結のための必要手続きについて
定期借家契約は、貸主にとって非常にメリットがあるものですが、その分、借主にとっては極めて大きな影響を持つため、法的に有効な定期借家契約と認めてもらうためには下記の通り、厳格な手続きを踏む必要があり、この点に落ち度がある場合には定期借家契約の効力が無効とされてしまうことに注意が必要です。
まず、定期借家契約を締結する前に、後述の定期借家契約の契約書とは別の書面で、賃貸人が賃借人に対して、その賃貸借が更新がなされない賃貸借であり、期間の満了により賃貸借が終了する旨を記載した書面を交付して説明する必要があります。
また、定期借家契約の契約書を作成し、その契約書の内容として「一定の契約期間(具体的に2年間や3年間といった期間の記載)」および「契約の更新がないこととする旨の特約」の両方を定めることが必要です。
注意するべき点としては、定期借家契約であることの説明に関する書面は定期借家契約書そのものとは必ず別の書面として作成し、賃貸人が契約の締結前に賃借人に説明のうえ交付する必要がある点です。
定期借家契約書の中に定期借家契約であることが記載されており、その内容を事前に説明していたとしても、定期借家契約書とは別に上記の説明書面の交付がなされていない場合には、定期借家契約が無効となってしまいます。
なお、定期借家契約であることの説明に関する書面を賃借人に説明のうえ交付する際には、後日、賃借人からそのような説明や書面交付を受けてない等と言われないためにも、説明と交付を受けたとの書面に、賃借人に署名してもらう必要があります。
定期借家契約の契約終了の手続きについて
定期借家契約が適正に締結されたとして、次に問題になるのは定期借家契約を終了させる手続きです。
この点について、法律では契約期間が1年以上の定期借家契約の場合には、賃貸人が賃貸期間満了の1年前から6か月前までの間に、賃借人に対して、期間満了により賃貸借が終了するとの通知をしなければ満了時に賃貸契約の終了を主張できないことが定められています。(なお、定期借家契約では契約期間は自由に決められるところ、1年未満を賃貸期間と定めた場合には、上記の賃貸借終了の通知をしなくとも賃貸期間満了により契約が終了となります。)
もっとも、うっかり上記の通知を送るべき期間を過ぎてしまった場合であっても、賃貸期間が満了する前に上記の終了通知を賃借人に通知した場合には、その通知の日から6か月後であれば賃貸契約を終了させられることが法律で定められています。
例えば、平成30年7月末日が賃貸契約の終了時期である場合には、平成29年7月末日から平成30年1月末日までの間に賃貸人が終了の通知を賃借人に通知すれば問題なく契約書上の終了時期に契約は終了となります。
一方で、賃貸人が通知を失念し、平成30年5月末日になってはじめて終了通知を通知した場合には、その6か月後である平成30年11月末日に賃貸契約が終了することになります。
さらに問題となりうるのは定期借家契約を締結後、当初の契約期間が満了した後に、はじめて賃貸人が賃借人に賃貸契約の終了を通知した場合です。
上記の具体例でいえば、平成30年7月末を過ぎてからしばらくして、貸主が終了の通知をした場合にどうなるかという点です。
この点については法律で規定されていませんが、過去の裁判例(裁判所の出した判決)では、当初の賃貸契約期間を過ぎた後に貸主が終了通知をした場合であっても、その通知の6か月後に定期借家契約は終了すると判示されています。
もっとも、上記の裁判例は、期間満了後に賃主が何らの通知や異議もないまま、長期にわたって賃借人が建物を使用継続しているような場合には、黙示的に(契約書等を作成しなくても)新たな普通借家契約が締結されたとの解釈もなされうることも示唆しています。
したがって、例えば貸主が定期借家契約の期間満了後も、長期間にわたって終了の通知等を借主にしないまま放置しておいたような場合には、普通借家契約の締結がされたものと扱われてしまうリスクが生じることになります。
以上から、定期借家契約のメリットを享受するためには、契約締結時のみならず、契約終了時の手続きも適正に行っていく必要があります。
監修弁護士紹介
弁護士 亀田 治男(登録番号41782)
経歴
2003年3月 |
上智大学法学部地球環境法学科 卒 民間生命保険会社(法人融資業務)勤務を経て |
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2006年4月 | 東京大学法科大学院 入学 |
2008年3月 | 東京大学法科大学院 卒業 |
2008年9月 | 司法試験合格 司法研修所入所(62期) |
2010年1月 |
弁護士登録(東京弁護士会) 楽天株式会社の法務部にて勤務 |
2018年1月 | 渋谷プログレ法律事務所開設 |
2021年5月 | プログレ総合法律事務所に名称変更 |
資格
・中小企業診断士
・経営革新等支援機関(認定支援機関)
・宅地建物取引士
・マンション管理士
・管理業務主任者